大統領からのフランス国民へ向けた手紙。
そう聞いてあなたは何を想像するでしょうか。
政治的説明責任を果たすためなのか、はたまた政治への協力要請なのか…
色んなことが連想されると思いますが、フランスの現状を知っている方は容易に想像ができるでしょう。
そう、今回の手紙が発表された背景には黄色いベスト運動が関係しています。
国民への手紙が発表された背景
長引く黄色いベスト運動。
以前ほどの動員数はないものの、いまだにデモが継続しています。
1月5日には2019年最初のデモが行われ約5万人を動員。それに対し先週1月12日のデモではフランス全土で約8万4千人が参加し動員数を大幅にアップ。
フィガロ紙では黄色いベスト運動の動員数を以下のグラフにまとめています。
出典 : http://www.lefigaro.fr/actualite-france/2019/01/12/01016-20190112LIVWWW00047-en-direct-gilets-jaunes-acte-ix-les-manifestations-la-crainte-des-violences.phpグラフでもひと目でわかるように、一番最初のデモから徐々に動員数が減少していったのですが、2019年を迎えて再び増加の傾向にあります。
そんな中で13日の日曜日にエマニュエル・マクロン大統領が国民へ向けた手紙を発表しました。
その手紙の内容とは?ざっくり解説
フランスとは?
冒頭部分ではフランスとはどういう国なのか、フランスの標語である自由、平等、博愛に触れながら語っています。
労働者が年金を支え、不平等をなくすために時に莫大な税金を払う反面、教育や健康、司法など収入に関係なく恩恵を受けられる、努力を分かち合うことで失業など人生の難局に面した時にも乗り越えていける…
支えあいのシステムに言及しながら、フランス人であることを誇りに思わざるを得ないと話しています。
暴力や圧力、暴言への批判
現在不満や怒りを抱えている国民がいることにも触れ、理解を示しつつも暴力や圧力、暴言に対する批判を展開。
希望が恐怖に打ち勝つためには、みんなで将来について考えていく必要がある、と。
国民大討論
すでに各市町村の役所にはノートや専用用紙が用意され、それに苦情や意見などを記入することができるようになりましたね。
手紙では各地で行われる討論に参加したりインターネット上で意見を述べるなど、アイディアを出し合うことの大切さを語っています。
そして出来るだけ多くの国民が討論やノート、インターネットなどで意見を述べてくれることを期待しているとのこと。
最近の黄色いベスト運動に代表されるように、国民の持つ疑問に対する答えを探るのがこの討論の目的です。
期間は3月15日まで。
議題は大きく分けて4つ
1.税制と公費
公共サービスの資金となる税金は国家連帯の要。公共サービスを提供する公務員の報酬だけではなく社会的弱者への社会保障やインフラ整備、文化や将来性のあるプロジェクトへの融資も関係しています。
また国債の利子の支払いも税金。
しかし税金が高すぎると経済成長と雇用を奪う結果を導いてしまう。
税制をより公正に、かつ効果的なものにするためにはどうするべきなのか?どの税金を優先的に減額すべきか?社会保障をよりよく組織化するには?
2.国の体制と公共サービス
学校や警察、消防、病院などに代表される公共サービス。我々の生活においてどれも必要不可欠なものばかり。
果たして行政区分は多すぎるのか?中央集権化したものを分散させ、国民のより身近なところに決定権を与えるべきか?
国と地方行政が問題や課題の解決策を導くためにどんなことをするべきか?
3.環境移行
生物多様性の保全と地球温暖化、大気汚染対策という公約を掲げたマクロン大統領。
可能な限り早急な対応を目指しており、それに異議を唱える声は現時点では出ていないとのこと。
環境移行を実現することで燃料費や交通費、廃棄物削減につながるが、それには膨大な投資も必要。
そこでこの環境移行のためには税金を使うのか?シンプルかつ実現可能な資金計画とは?環境移行を促進するためにできる具体的な方法とは?
ヨーロッパや世界の競争相手を前に我々の農工業がペナルティを受けることなく生物多様性保全を実現するには?
4.デモクラシーと市民権
市民権を得るということは選挙を通してその地方や国、ヨーロッパの未来を決めていくということ。
フランスの基盤となる考えですが、改善の余地ありとの考え。
白紙投票は有効票としてカウントすべきか?投票を義務とするべきか?議員数を減らすべきか?
国民投票をすべきか?
また移民の受け入れの現状を改善する方法は?
政教分離原則を強化するにはどうすべきか?
討論への参加を呼びかけ
上記に挙げられているテーマに限らず、フランスの現状改善と未来のために多くの国民の討論への参加を呼びかけています。
また国民との協議の場を設けることで、フランスにとっても大きな一歩を踏み出すことになるのだと考えている、と触れられていますね。
マクロン大統領は「選挙でも国民投票でもない」と言及。国民の怒りを解決へと導きたい考えを示しました。
今後の展開
手紙を公開した1月15日、すでにノルマンディー地方のGrand-Bourgtherouldeグランド・ブールトルルドで市長たちとの討論を開始。
コチラのエリゼ宮のサイトに動画が投稿されていますので気なる方はどうぞ。動画自体は6時間以上あります。
次回は1月18日にオクシタニー地方での市長たちとの討論が予定されています。
今後討論を通してどのような議論が出てくるのか、どれだけの国民の声が集められるのか、また討論をすること自体への国民の反応などにも注目が集まっています。
https://www.elysee.fr/emmanuel-macron/2019/01/13/lettre-aux-francais